普段私たちが読み書き話す言語である日本語。子供でも大人でも当たり前のように使っている一方で、特に「書く」という段になると何が正解なのかわからないという方も多いのではと思います。
本サイトをご覧の皆さんには一目瞭然かもしれませんが、恥ずかしながら私ジェイゾーもそのように良く分からずに日本語を書きなぐっている残念な日本人の一人でして、日々の生活で日本語の文章を書くたびに、「正しい語順は何なのか」「わかりやすい読点のいちはどこなのか」といったことに頭を悩ませています。
そんな中私の勤める経営コンサルティング会社にて若くして高位のポジションに上り詰められた方からおすすめされた本が、この 本多勝一著『<新版>日本語の作文技術』になります。
書籍概要とサマリ
書籍概要
- 書籍名:<新版>日本語の作文技術
- 著者:本多勝一(元朝日新聞記者)
- 出版年月日:2016年11月25日(原版である「日本語の作文技術」は1982年刊行)
- ページ数:265ページ
- 内容:分かりやすい日本語の文章(特に文)を書くための手法の紹介
おススメできる点:
- これまで学校などでは習えな語った分かりやすい日本語文を書くための手法・テクニックがわかりやすい「原則」としてシンプルかつコンパクトな形で紹介されているので、非常に実用的だと感じました
- なぜそのような原則が存在するのかを読者に説明するために多くの具体例や詳細な解説も掲載されているため、きちんと読み込むことでなぜその「原則」が成り立つのかを腹落ちさせてくれる内容となっています
注意するべき点:
- 本書は日本語文を書くための手法・テクニックを大量に紹介するというよりは、少数精鋭の「原則」のみを紹介し、それぞれの「原則」を腹落ちさせるための解説や具体例に紙面を割く構成となっています。そのため、結論にあたる「原則」のみを知りたいという人には解説部分は冗長に感じるかもしれません
- 本書は1982年刊行の本を再編集したものということもあり、特に具体例として引用されている一部の文章の文体が古いものとなっています。といってもあくまで現代文の範疇であり、内容を理解するうえで特に問題には感じませんでしたが、もしかしたら気になる方もいらっしゃるかもしれません
要約・ジェイゾーの解釈
- 日本語にはその複雑性ゆえに確固とした文法・ルールはないと誤解されがちだが実際には存在する
- 日本語における大黒柱は「述語」であり、「主語」を含めたほかの要素はそれを修飾する「修飾語」と全て一括りにされる
- したがって、語順の調整や「読点(、)」・「漢字」といったツールの活用により如何にこの多種多様な「修飾語」を分かりやすく表現するかが日本語の文を書く上では重要となる
内容紹介
それでは、上記の私の解釈になぞらえて本書籍の内容を一部紹介させて頂きます。
日本語にはその複雑性ゆえに確固とした文法・ルールはないと誤解されがちだが実際には存在する
私たちが普段から何気なく使っている日本語ですが、主語のあるなしであったり、言葉の順番だったりが非常に柔軟です。
例えば「ジェイゾーが田中さんにリンゴを買ってあげた」という文章を例にとってみると
- ジェイゾーが田中さんにリンゴを買ってあげた
- 田中さんにジェイゾーがリンゴを買ってあげた
- リンゴを田中さんにジェイゾーが買ってあげた 等々
のように、どのような語順でも文章として成り立ちます。
ここで、比較のために英語の場合を考えてみると同じ内容を表す文でも
- J-zo bought Mr. Tanaka apples
と一通りでしか成り立ちません。(J-zo bought apples for Tanaka-sanとすることもできますが、主語であるJ-zoは必ず文頭に置く必要がありますし、この場合は新たなforという前置詞を追記して分の構成を変えてしまっています)
このように日本語では英語等の言語と比較するとかっちりとした型・ルール(=文法)が固まっていないため、よく「日本語の文法はあいまい」だとか「日本語には英語のような文法の型は存在しない」だとか思われているかと思います。(そして、その柔軟性ゆえに文章を書くときに語順をどうすべきかを悩みがちだということです、、、)
しかし、この本の著者はこのような認識は誤りである断言しており、日本国民の多くがそういった誤った考えに陥っているという現状に一石を投じることを本書の目的の一つとしているようです。
日本語における大黒柱は「述語」であり、「主語」を含めたほかの要素はそれを修飾する「修飾語」と全て一括りにされる
さて、ではその日本語におけるルールとは具体的に何なのかを理解するにあたって、一点ベースとして理解するべき点があります。
それが見出しにも書いてある『日本語における大黒柱は「述語」であり、「主語」を含めたほかの要素はそれを修飾する「修飾語」と全て一括りにされる』ということ。
これが具体的にどうゆうことかというのを先ほどの例文をもとに解説したいと思います。
英語の場合
まず、先ほども比較のために出した英文の場合です。一般に英語では、各単語・節の文章の中での役割が語順によって固定されています。先述の例の場合ですと、1番目が誰が動作を行うのか、2番目がどんな動作、3番目が誰に動作を行うのか、4番目が何に動作を行うのかといった具合です。このルールはどのような単語・節が来ようと必ず成り立ち、それ故に英語では各単語・節の語順を自由に入れ替えることが出来ません。
こういった背景から英語では、それぞれの役割に対して主語・動詞・関節目的語・直接目的語と名前をつけることで文を形作る構成要素として個別に定義しているのです。
その中でも特に主語と動詞は強い意味合いを持ちすべての分において欠かすことはできず、かつその語順も固定されています。
日本語の場合
次に、上述の英語で言う文型のようなルールが日本語にも存在するかどうかを先述の例文を元に考えてみましょう。
先述の通りこの例文では「ジェイゾーが」「田中さんに」「リンゴを」という3つの句の順番は自由である一方で「買ってあげた」という句は必ず文末に来る必要があります。
この前半3句が順不同である理由を「日本語には明確な語順ルールがないから」ではなく「3句の文中の役割は同じであり並列な関係であるから」と考えると、この例文は以下のように「修飾語」と「被修飾語」という構造にてあらわされます。これこれこそが日本語文の基本構造なのです。
したがって英語では主語にあたる「ジェイゾーが」も日本語においては単なる修飾語の一つであり、順番を変えようが文から除いてしまおうが文章として成り立つというわけです。
この考え方が私にとっては非常に斬新かつ価値のあるものでした。
というのも、私の記憶では国語の授業では日本語の基本的な構成要素は主語と述語であり、主語が文頭に述語が文末にくるのが基本的な文の構造であるとならったような記憶があり、それゆえに分の語順を整える際に無意味に主語を文頭に毎回持ってきてしまい分かりにくくなる、といったことが多くあったからです。
この考え方は書籍内では「主語廃止論」と呼ばれ、厳密な統辞論(文の構造を探求する学問)の世界では賛否があるものとして紹介されています。しかし少なくとも日常で日本語を用いる範囲においては、私個人の感覚としては非常に”腑に落ちる”考え方だと感じました。
語順の調整や「読点(、)」・「漢字」といったツールの活用により如何にこの多種多様な「修飾語」を分かりやすく表現するかが日本語の文を書く上では重要となる
さて、この日本語には「修飾語」と「被修飾語」しかないという前提に立つと、「被修飾語」は「買ってあげた」等の英語でいう動詞にあたる単語のみで構成されるのに対して、「修飾語」はそれ以外のほぼすべての要素を(前述の主語・目的語に加えて「土曜日に」「大量に」等の補語・副詞的な要素も)内包することになります。
これは裏返すと、修飾語として順不同で並べられた各単語・句がどの意味合いを表すのかが順番により意味合いが固定される英語と比較して誤解されやすいということになります。したがってこの「修飾語」を如何に分かりやすく表現するかが日本語の表現において鍵となるわけです。
本書籍の中では、そのための方法論として以下のような内容が詳細な解説と大量の具体例とともに紹介されています。
- 修飾語と述語の位置関係
- 修飾語の順序に関する4原則
- 読点の打ち方の2大原則
- 助詞の使い方
さらにこれに加えて、読者が途中で興味を失ってしまうことを防ぐために避けるべき「無神経な文章」等に関しても開設されています。
特に修飾語の順序に関する4原則と読点の打ち方の2大原則については個人的に直感的に分かりやすくかつ即効性があると感じました。
さいごに
以上が本書籍に関しての紹介になりますが、いかがでしょうか?
この本の凄いところは、ビジネスの現場で非常に重要である一方でこれまで(少なくとも私は)曖昧にしか教えられてこなかった日本語文の書き方というテーマに対して、シンプル・コンパクト・実用的な一定の「原則」を提示してくれることです。
この「原則」を知るまでは、メールや資料等に書く文章をわかりやすくするために、語順であったり読点の位置であったりを決める際の基準が全くなく、完全にフィーリングで総当たり的に試すことしかできませんでした。
しかしこの本で紹介されている「原則」を知って以降は、それを基準として文を推敲することが出来るようになり、時間的にも思考の負荷的にもずいぶん削減できるようになったと感じています。
私と同様に日本語の書き方に関してお悩みの方、もしくはより洗練された書き方を身に着けたいとお考えの方はぜひ手に取ってみてください!